校長 矢吹 玲子
令和三年度、学校教育法施行規則の一部改正に基づいて、高校に期待される社会的役割等(いわゆる「スクールミッション」)を設置者である岡山市が再定義しました。本校のスクールミッションは次の通りです。
「自分で創る学校生活」の建学の精神のもと、単位制総合学科の特色と中高一貫教育校の強みを生かし、多様な生徒の個性を大切にしながら、生徒一人一人の自立に向かう成長を支える。
地域や世界とつながり、他者との協働活動を通じて、創造力、論理的思考力、表現力を伸ばし、自他を尊重できる持続可能な社会の創り手を育成する。
創立以来大切にしてきた建学の精神を、生徒は学校生活の根幹として常に意識しながら、主体的な学校生活を送っています。明文化された校則に縛られるのではなく、一つ一つの言動や振る舞いをする前に、それが正しいことか、適切な作法であるかを、自分で考えて判断することは、実はとても難しいことです。本校はその難しい判断を、生徒にもそして教師にも課しているというわけです。高校生は管理され保護されるだけの子どもではなく、信頼され判断を任される若き大人(ヤングアダルト)として扱われる一面があるはずです。「若き大人」である生徒が周囲の雰囲気に流されることなくしっかりと自分で考えて出した結論を、教職員は尊重し見守っていきたいと思います。
本校のもう一つの特色は、単位制総合学科中高一貫教育校ということです。工業のものづくりに打ち込む生徒、簿記の技能を高めることに専心する生徒、大学進学を目指す生徒など、ほかにも色々な専門教育を受けている生徒が同じ空間の中でクラスメートとして生活を送り、共に協働して「総合的な探究」のチームを組み、力を合わせて学校行事を創り上げていくのです。将来、宮大工を目指す人と看護師を目指す人との関心の領域は違うでしょう。教員免許取得を目指す人とダンスのプロを目指す人との大切にしたいものも違います。13歳の中等部1年生が情熱を傾けるものと18歳の高等部3年生が夢に描くものももちろん違うはずです。それらが価値観や考え方の違いというものなのです。
学校という環境が多様な生徒がともに過ごしている場所となっています。実はそれは、現実の社会そのものに近い状態なのだろうと思うのです。社会に出て生活をすれば、そこには色々な考え方、生き方の人がいて、異文化のバックグラウンドをもつ人たちとともに暮らしていくことになります。本校において生徒はそのような社会の縮図を体験していると言えるのかもしれません。たくさんの人々が皆それぞれ違った考え方やマナーの基準をもち、お互い傷つけないように気持ち良く生活していくためには、その都度周囲の状況をよく考えて判断しなければなりません。その時に、忘れてはいけないのが「自分の価値観や基準を他の人に強制してはいけない。考え方の違う人を排除してはいけない。」という社会のルールです。自分が知らず知らずのうちに、相手やほかの誰かを不快にしたり居心地悪くしたり、傷つけたりするような言動や振る舞いをしないための練習、それが後楽館の大切にしている「社会のルールとマナー」なのだと思うのです。
後楽館が包含する多様性はさらに幅広いものです。他校では当たり前の男女に分けられた統一の制服をもたないことで、意識をジェンダーから個々の人へと向かわせ、バリアフリーとユニバーサルデザインの環境が、身体的や精神的なハンディキャップを解消へと近づけていると信じています。色々な個性や特性をもった人々がごく自然にそばにいて、お互いに言葉を交わしながらお互いを知っていくという、この環境こそが後楽館が維持していくべき教育の土壌なのだと思います。
未来に向かうこれからの教育において、子どもたちが身に付けることを求められている力は、差し出された課題を「解決する力」ではなく、何が課題であるのかを「発見する力」だと言われています。課題とは言い換えると「違和感」として感じられるものであり、違和感は同質的集団の中からは発生しないのです。多様性(ダイバーシティー)の重要性が叫ばれるのはまさにそのためでしょう。後楽館の教育環境そしてスクールミッションに込められた教育理念は、多様性から生み出される新しい価値の創出を可能にし、そこでは自身の信念と他者への尊敬の念を兼ね備えた若き大人が育つ —― これが、後楽館という唯一無二の教育モデルであると思っています。